「『何かを伝えたい』という気持ちが英語を上達させる」志賀俊之が学んだ、ビジネスを成功させる英語力とは

日産自動車でCOO(最高執行責任者)を務め、2015年から産業革新機構(現INCJ)の会長を務めている志賀俊之さんに「ビジネスと英語」というテーマで、2019年12月18日にインタビューをさせていただきました。

 

志賀さんは、日産自動車時代の1983年にアジア太平洋営業部で中国を担当し、1987年にはインドネシア参入プロジェクトのリーダーとなるなど海外でのビジネス経験も大変豊富な方です。

 

また、1997年に日本に戻られてからは、外資との提携のメインネゴシエーターとなり、1999年にCOOに就任したカルロス・ゴーン氏のもと、アライアンス推進室長として『日産リバイバルプラン』を立案・実行しV字回復に貢献されました。

 

そんな志賀さんのインタビューを2回にわたってお送りします。

 

第1回となる今回は、志賀さんの英語との出会いから、日産のV字回復をささえた英語術についてお聞きしました

 

志賀俊之さんのプロフィールへ

 


「外国語学習のコツは耳から表現を学ぶこと」

 

English Study Cafe編集部 (以下、ESC):まずは、志賀さんと英語との出会いについて教えてください。

 

志賀俊之さん(以下、志賀):英語の勉強を本格的に始めたのは、大学時代ですね。

 

中学、高校時代は、英語が苦手でした。大学受験の時も、「英語の点数さえよければ他の選択肢があったかもしれないのに」という思いもしました。

 

私が大学生のとき、日本は国際化の真っ只中にありましたので、英語ができないと今後ずっと苦労することになるのだろうなと感じ、大学時代にESS(English Study Societyの略、英語を使って活動するクラブのこと)に入ることを決めたのです。

 

ESC:ESSでは主にどのようなことを行っていたのですか?

 

志賀:ESSでは、ディベートを行っていました。ディベートのお題について、2、3カ月前から準備をしたり、論理のストーリーを組み立てたりといったことをしていました。

 

ESSに入ってよかったと思うのは、論理的な思考力が身についたことですね。ディベートではロジックを細かなところまで詰めておくことが非常に重要になってきます。

 

だから、大学時代はロジックの作り方について一生懸命勉強しました。論理的に話を組み立てる力というのはこの時に身についたと思っています。

 

ただ、英語に関しては、その当時はまだまだ上手ではありませんでした。ネイティブスピーカーとディベートをしても、ロジックの部分では勝てても、英語が上手く話せず議論に負けてしまうということがありました。

 

ESC:「英語が話せる」とご自身で思うようになったのは、大学卒業後ということですか。

 

志賀:そうです。大学を卒業して、日産自動車に入社した後になります。

 

入社当初は日産が当時始めたばかりの、マリーン事業部でボートやヨットの営業をしていました。その時は、海外営業の担当ではなかったので、英語の勉強はほとんどしていませんでした。

 

マリーン事業部で5、6年働いた後、配属先が変更になって、輸出部門のアジア営業を担当することになりました。

 

ESC:その時に英語学習を再開されたのですか?

 

志賀:はい。当時は、ウォークマンが出始めたころで、通勤時間に英語をシャワーのように聞き続けていました

 

しかし、しばらくして中国担当になったので、英語は勉強しなくなってしまいました。ただし、中国に行って中国語の勉強をしたことをきっかけに、私の語学に対する考え方は変わりました。

 

ESC:英語以外の言語を学ぶことが、外国語学習への考え方を変えるきっかけになったのですか?

 

志賀:そうです。中国語は話せる人が少ないので通訳がついてくれましたが、せっかくなら中国語を話せるようになりたいと思って、中国語の勉強を始めました。

 

丸2年くらい中国語の教室に通った結果、英語より中国語の方が話せるようになったのですよ。

 

ESC:2年で英語を越えたのですか! すごいですね。どのような勉強をされたのですか?

 

志賀:なぜ2年の学習で中国語を話せるようになったのかを考えたときに、「英語を勉強したときは文法から入ったけれども、第二外国語は文法から学ぶのではなく、耳から1つ1つの表現をそのまま学んだからだ」と気づいたのです。

 

英語を話そうとするときは、正しい文法を駆使して話そうとしてしまい、どうしても日本語を英語に翻訳しながら話してしまうのです。

 

一方で、第二外国語というのは、「こういう表現があるんだ!」ってわかったら、それをそのまま覚えるわけですよ。そうやって、耳と口を使いながら覚えていくので、第二外国語はそのまま口をつくように表現が出てくるようになるのです。

 

子供が言葉を学ぶ時と同じように、音から言語を学んでいると、頭の中で一度日本語に翻訳してから話す必要がなくなるんですよね。

 

「これが外国語を学習するコツだ」とその時感じました。

 

ESC:確かに、日本の英語教育では文法上のミスに過敏になりすぎているかもしれません。その結果、英語を話すことに苦手意識を感じて、英会話の練習をする機会が少なくなりがちです。

 

志賀:そうです。文法のことを考えながらでは、言語を操れるようにはなりません。

 

中国語を学んだ後、インドネシアの営業担当になり、インドネシア語も学びましたが、インドネシア語は3カ月くらいで話せるようになりました

 

ESC:3カ月! それもすごいですね。

 

志賀:インドネシア語も同じように表現を耳から学ぶことで習得しました。

 

 

「食堂に外国人が入ってきたら必ず英語で話さなければいけなかった」

 

ESC:中国語とインドネシア語を話せるようになったあと、どのように英語もマスターしていったのかを教えていただきたいです。

 

志賀:インドネシアから日本に戻ってきて、企画室の外資提携のチームに入りました。そこでルノーとの提携の話を進めていたのですが、ルノーはフランス企業なのでもちろん英語で交渉をしなければいけないわけです。

 

フランス人も英語は母国語じゃないので、結構ゆっくり英語を話してくれるわけですよ。

 

そういう意味では、フランス人と仕事が一緒にできてよかったなと感じています。コミュニケーションが取りやすいので、気がついたら朝から晩まで英語でしか話していないこともありました。

 

ESC:実際に英語を話さなければいけない状況が英語力を向上させたのですね。

 

志賀:それに加えてゴーンさんが決めたルールも、私の英語力向上に大きく役立ちました。

 

そのルールというのは、役員食堂で外国人が入ってきたら、必ず英語で話さなければいけないというものです。

 

日本人もフランス人も国籍に関係なく、みんな英語で話さなければいけないのです。

 

そういう世界なので、英語が上手とか下手とかは関係なく、みんな英語で仕事をしなければいけない状況だったのです。

 

今考えると、最終的に私の英語力を鍛えてくれたのは、英語を話さなければいけないという環境そのものだったと思います。

 

ESC:そのころは、国際会議でも英語で話されていたのですよね。

 

志賀:はい。私は割と度胸がある方だったので、国際会議に呼ばれたら断ったりはしませんでした。

 

ESC:すごいですね。英語に対して不安を感じたりはしなかったのでしょうか?

 

志賀英語の国際会議やディスカッションも結局は度胸が大事だと思いますよ。物怖じしないようにしっかり準備するのが大切です。

 

ESC:そういった経験を通して考えると、英会話上達のためのポイントとはどのようなことになるのでしょうか?

 

志賀:私が日本人に絶対伝えておきたいことは、日本人は文法通り話さなければいけないという意識が強すぎるということです。

 

言葉を話しながら「ここは過去形かな、過去完了かな?」なんてことを考えていたらまともに話せないですよ。

 

英語を話さない環境に身を置いたまま「英語が話せるようにならない……」と苦労するよりも、下手でもいいのでとにかく現場でしゃべるということが大切です。

 

仮に間違った英語を話していたとしても、正しい英語に言い直して話してくれる親切な人もいるので、そういう人との会話を通して英語力は向上していきます。

 

そうやって、英語は話しながら上達していくことが大切なのです。

 

 


「ゴーンさんの英語は人を動かす力がある」

 

ESC:ゴーンさんは5カ国語をお話されると思うのですが、そんなゴーンさんから志賀さんが学ばれたことは何でしょうか?

 

志賀:ゴーンさん自身、もちろん英語は上手ですけど、やっぱりネイティブに言わせると少し、たどたどしいところがあるわけですよ。

 

ただ、ゴーンさんの英語は、上手とか下手とかは関係なく、「人を動かす力」が非常に強い。ゴーンさんの英語を聞いていると他の誰よりもわかりやすいと感じます。英語をコミュニケ―ションツールとして完璧に使いこなしているのですよね。

 

ゴーンさんは、なんとなく英語を話しているのではなく、「自分の思いや気持ちを伝える英語」を話すんですよ。

 

ESC:ゴーンさんは、説得力のある話し方をされるということでしょうか?

 

志賀:はい。日本人が日本語でスピーチをしていても、すごく感動したり、納得したりできる話し方があると思いますけど、ゴーンさんはまさしくそんな話し方が英語でできるわけです。

 

英語を話すということは、文法的に正しいとか、適切な単語を使っているかとかそういうことではなく、「相手を動かすような、気持ちのこもった英語」を話すことが重要だと学びました。

 

やはり英語はコミュニケーションのツールですから、英語で「何かを伝えたい」「人を動かしたい」という気持ちから英語の勉強を始めるべきだと思います。

 

そういった気持ちで勉強することで、自然とボキャブラリーも豊かになってきて、間違った文法を使うことも少なくなってくるのです。

 

(つづきます)

 

第2回「日本人に必要なのは一歩前に出る勇気」志賀俊之が語る、グローバル社会で必要な資質

 

プロフィール

志賀俊之(しが・としゆき)/株式会社INCJ  代表取締役会長

 

1976年、大阪府立大学経済学部卒業。同年、日産自動車入社。2000年に常務執行役員。2005年よりCOO(最高執行責任者)に就任。2013年11月副会長に就任。2015年、産業革新機構会長に就任。その後、日産自動車取締役副会長を退任し取締役となり、2019年に退任。2018年9月、株式会社産業革新機構から新設分割により株式会社INCJが新設され、現在は株式会社INCJの代表取締役会長を務める。

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